宝石ジャラジャラ発言【その1】からの続き
この時の会場は1884年に設立された由緒ある王室プリンス・オブ・ウェールズ劇場。
ビートルズは19組の出演者の中の7番目で登場する。
ややナーバスな感じながらもクオリティ抜群の演奏でジョン・レノンのリードボーカルによる「フロム・ミー・トゥ・ユー」を披露。
緊張気味でポール・マッカートニーがMCをとる。2曲目もやはりジョンがリードボーカルをとる「シー・ラブズ・ユー」へ。
3曲目はポールがリードボーカルを取る「ティル・ゼワ・ワズ・ユー」。この曲は2週間後に発売される2枚目のアルバム「ウイズ・ザ・ビートルズ」に収録される。
続いてここでもポール・マッカートニーがMCを担当。
”Thank you, thank you, than you very much indeed(ありがとうございます。まことにありがとうございます)”と、慇懃に聴衆に礼を述べる。
そして、いよいよ最後の曲となる「ツイスト&シャウト」。
ここで初めてジョン レノンがMCをとる。
いったんステージの下がった場所から、ゆっくりとジョン・レノンはマイクスタンドまで歩み出て、”Thank you”(ありがとう)とそっけなく言う。
その表情はそこまでMCをしていたポール・マッカートニーに比べてどこか冷めた調子で、投げやりな感じすらある。
そしてこう続ける。
「最後のナンバーのために手助けをお願いしたい」
「安い席にいる人たちは手拍子を」
「それ以外の人たちは、宝石をジャラジャラいわせて」
こう言った後にジョン・レノンはメンバーの方を笑顔で振り返る。
笑いで湧いている正面の聴衆をいたずらっっこのように見回して、「ツイスト&シャウト」の演奏に入っていく。
この一連のジョン・レノンの表情と仕草は実におおらかで楽しそうだ。だからだろう。この後のメンバーはそれまでの硬さが抜けとても軽やかな感じの演奏になる(リンゴ ・スターが特に!)。
言葉だけを切り取ると、「身に付けている宝石をジャラジャラ言わせて、曲を盛り上げて」ということでただのジョークのように聞こえる。
実際にこの件は、そのようなエピソードとして取り上げられる。
だけど、その時にジョン・レノンが言った全部の言葉とその場の状況。
そしてあの不敵で茶目っ気たっぷりな表情を総合的に解釈すると、そんな軽いジョークにはならない。間違えなくこういう意味を込めている。
「どうせ上流階級の偉いあんたたちは、手拍子なんか打ったりしないだろうから、せめて体を揺らして、そのたくさん身に付けている宝石をジャラジャラ言わせて、曲を盛り上げてくれ」
イギリスという国は皮肉(”Irony”)な表現を日常の中で使いこなすことが文化伝統となっているところで、ここはほかの欧州諸国や米国と少し違っている点だ。
近年にヒットした連続ドラマ「SHERLOCK」や、筆者が最近はまってるアップルがドラマ化した「窓際のスパイ(Slough House)」などにもそれはよく出ている。
だから、このジョン・レノンの発言についても、会場の雰囲気はもちろん聴衆やメディアなどからも否定的な反応はなかったようだ(たとえ、あったとしても当時は押さえ込んだだろう)。
むしろ、この早い段階でビートルズの大物ぶりをアピールする絶好のパフォーマンスだったと言える。
©︎ 2023, Raizo